とくでん書房

徒然なるままに日暮し

記憶

たしか雨が降っていたはずだ。

 

いや、そこまで記憶が曖昧なわけではない、酒だってそこまで飲んでいなかったはずだ。

でも、その時俺は傘をさしていなかった。

傘もささず、道向かいの文房具屋のガラスの向こうの少年をずっと見ていた。

 

俺か、、、

いや、もちろんそんなわけがない。

しかしその少年の顔、仕草は自分のそれにそっくりだった。あの独特な立ち方、少し下を向いた猫背。さらに、あの服は俺が小学校のときに気に入っていつも着ていた服だった。

 

その少年はペンを試し書きしていたが、一本選ぶと母親らしき女性の方へ歩いて行った。

俺は自分の足が震えるのがわかった。

 

その女性は俺の妻だった。