とくでん書房

徒然なるままに日暮し

ボリューム32

いつもよりもほんの少し大きな音が車のスピーカーから流れていました。苛立っていたわけではありませんが、少しだけ大きな音で心の中の音を誤魔化したかったのでしょう。

窓も開けて外の音も取り入れます。音楽と重なり田舎の道に喧騒を連れてきます、その喧騒に身を任せていました。

チリン

とても小さな、でもとてもかわいい音がしました。音の正体は車の鍵についているアルミのプレートでした。

直径5cmほどで楕円形の薄いプレートは表面に365と数字だけが刻印された脆弱さすら感じさせるシンプルなものです。以前行ったフリーマーケットで購入したものでしたが、お店の人は米軍のものだとか言ってた様な気がしますが、詳しくは忘れました。

そのプレートと鍵が車の振動で接触して音がしたのです。

この喧騒の中であって、その音と比べるととてもか弱い小さな音のはずですが、心に響いてなぜかこの音は聞こえるのです。

私はこの音がとても好きで、喧騒でかき消そうとしていた心の音を、かき消すのではなく、溶かしてくれるのです。

本当にたまにしかならないこの音を心待ちにしています。