とくでん書房

徒然なるままに日暮し

非望 ~もやもやした小説

 

その男は立ちすくんでいた。

 

自分の人生を構成しうるいくつかのものをたった今、失った。

失ったといえばまだ救われるのかもしれないが、実際は自ら、捨てた。

 

 

バブルも終わり、就職氷河期という言葉もずいぶん定着したころ、その男はサラリーマンという至極平凡な一歩を社会に踏み出した。

特に望んだ仕事ではなかったが、社内の人間関係にも恵まれ、大多数の平凡な社会人として溶け込んでいた。

 

そして結婚もして、男の子も1人授かった。

 

そう、着実に人生を構成する要素を増やし、

そう、これが幸せなんだろうと、男は理解していた。

 

 

 

 

 

その時に気付くべきだったのかもしれない。

 

しかし、もう、遅い。

 

 

 

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