とくでん書房

徒然なるままに日暮し

記憶②

妻、いや正確に言うと今よりも若い妻らしき女性は、俺、正確に言うと小学生の俺らしき少年と持ってきたペンを見ながら何やら話をしているようだ。

 

ちょっとまて、じゃあ、あの女性の旦那は誰だ。

俺は今ここにいる。いや、小学生の俺もそこにいる。誰だ。

俺は道を挟んだその文房具店の中をガラス越しに探した。

その女性はレジの方へ歩いて行ったが、どうやら旦那らしき人物は見当たらない。

 

たった4間の幅、道を渡って文房具店に入ればはっきりするのだが、足が震えてその場から動くことができなかった。

 

レジを済ましたその親子は笑いながら店を出てきた。

2人だ。旦那はいない。

 

2人は目の前の横断歩道を渡ろうとしている。

自分の心臓の音がはっきりと聞こえる。

12m

8m

2人の顔がはっきりとわかる。

やはり俺だ。妻だ。

 

心臓の速さがますます上がっていく。

 

このままでは、俺の横を通ることになる。

やばい。でも足が動かない。

 

やばい。

 

ついに目の前まできた2人はなんと俺の前で立ち止まった。

そして女性が言った。

 

 

「おまたせ、あなた」