とくでん書房

徒然なるままに日暮し

曇天

「出荷量は年々減少してますね。」

 

今日会社に来たメーカーの営業マンも昨日の営業マンと同じ言葉を繰り返していた。

彼の実家は瓦の施工を主とした零細企業だった。俗にいう斜陽産業である。つい先日も瓦メーカーが1社事業を停止したばかりだった。

 

近年、住宅の着工件数の減少に加え、瓦を使わない住宅が増え、瓦業界は落ち込んでいた。関係者はいろいろなイベントを実施したり、新しい瓦の開発に取り組んでいた。例えば、軽量化した瓦を開発したり、ご当地アイドルを使って瓦をPRしたりするものだ。しかし、効果を実感できることなく、今を迎えていた。

 

瓦職人たちはこぞって近くの造船会社へ転職した。

びっくりするほどの安い日当のうえ、雨で現場作業ができない日は休みで、その日当さえも手に入らない。そのうえ、危険で、きつい。

造船会社への転職は限りなく正解に近かった。

 

こんな状態だ、自然淘汰で瓦を施工する会社は当然減ってしかるべきだった。しかし、メーカーは再編や廃業と減少しているにもかかわらず、施工会社は以前と同じ数を保っていた。もちろん、メーカーではないので工場固定費等の支出がないことが理由の1つだろうが、最大の理由は各会社が超零細であることだろう。

つまり、従業員がほぼいない会社は利益が減少しても経営者の報酬を減らせば維持できるのである。それだけのことだ。

 

 営業マンは続けた。

「出荷量は減ってますが、わが社のシェアは年々増加しています。」

 

不毛だ。

と彼は思った。

 

この会話に業界の状況が透けて見えたような気もした。

 

ひとしきりしゃべり、満足げな顔をして営業マンは帰っていった。

 

不毛だ。

青とグレーを混ぜたような感情でその背中を見送った。

雪がちらついていた。