とくでん書房

徒然なるままに日暮し

営業3課課長

「なんか言ったか?」

 

工場の中は機械の音がうるさく、隣の部下の声がかき消された。

 

機械はとどまることなく製品を吐き出している。

 

機械商社の営業3課の課長になって初めての大きな仕事だ。

失敗するわけにはいかない、と

手の中の汗を握りつぶしつぶやいた。

 

この機械を納入するために多くの時間とお金を費やした。購入の決定権者である生産技術課の課長には裏で現金も渡していた。

 

どうしてもこの案件を取りたかった。

 

どうにか昨年の夏に契約を交わすことができ、本日初めての稼働となる。

 

  

機械商社であるこの会社で営業3課は言わばエリート部隊だ。

3課の課長になるということは、次期営業部長の道が約束されていた。

 

本当は違う人物が課長になるはずだった。

しかし、その本人は現在、小さな町工場を担当する営業2課の課長代理になっている。

 

ずるいとは思わない。

申し訳ないとも思わない。

 

これが俺が踏み込んだ世界だ、

 

と、どうせ機械の音にかき消されると思い口にした。

 

 

しかし

隣の部下はずっと課長の方を見ていた。

 

 

了 

 

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