とくでん書房

徒然なるままに日暮し

超超短編小説

曇天

「出荷量は年々減少してますね。」 今日会社に来たメーカーの営業マンも昨日の営業マンと同じ言葉を繰り返していた。 彼の実家は瓦の施工を主とした零細企業だった。俗にいう斜陽産業である。つい先日も瓦メーカーが1社事業を停止したばかりだった。 近年、…

青い空

窓からは青い空がこちらを睨んでいた。 足を骨折したのは2週間前になる。ドジな話だが、家の階段でこけてしまった。 手術の必要があるため、合計1週間入院することになったのだが、病院内とは対照的に外は快晴で恨めしかった。 昨日、会社の同僚がお見舞いに…

歪み・対

masaki109-109.hatenablog.com masaki109-109.hatenablog.com 肉じゃがは久しぶりだ。 半年前に課長になった夫は、仕事先での会食も多くなった。 今日は久しぶりに家でご飯を食べるというので健康的な献立を考えた。 一足先に帰ってきた長男はもうすぐ高校生…

営業3課課長

「なんか言ったか?」 工場の中は機械の音がうるさく、隣の部下の声がかき消された。 機械はとどまることなく製品を吐き出している。 機械商社の営業3課の課長になって初めての大きな仕事だ。 失敗するわけにはいかない、と 手の中の汗を握りつぶしつぶやい…

歪み・裏

肩を叩かれ起きた。 危うく乗り過ごすところだった。 起こしてくれた同僚に礼を言って、電車を降りた。 別に飲みすぎたわけではない。 課長になって半年、帰りの電車で寝てしまうことが多くなった。 疲れているのか、 確かに、現在上場を目指している会社の…

歪み

「おーい、ボール取ってくれ」 少年に声をかけたのは、日焼けで真っ黒の顔をした高校生だった。 少年はボールを手にとると、予想よりもずっしりと重い、その硬球を投げ返した。 河川敷のグラウンドでは、毎日近くの高校生が野球の練習をしている。 この高校…

非望 ~もやもやした小説

その男は立ちすくんでいた。 自分の人生を構成しうるいくつかのものをたった今、失った。 失ったといえばまだ救われるのかもしれないが、実際は自ら、捨てた。 バブルも終わり、就職氷河期という言葉もずいぶん定着したころ、その男はサラリーマンという至極…